「速い」と何がいいのか
アンプの速さは通常「スルーレイト」で表現されます。
一時、高速アンプブームの頃は「ライズタイム」も使われましたが、
併記する程の違いはなかったようで、専らスルーレイトです。
高域特性の広さを唱ったメーカーもありました。
アンプの高速化が叫ばれるようになって誰もがアンプの「速さ」
を問題にするようになりましたが、
アンプの「速さ」の尺度として使われるスルーレイトが必ずしも
音と相関していない事については「見ないようにしていた」ように思えます。
球(真空管)の時代、トランス結合があたりまえだった時代には
低域のみならず高域も制限され、アンプの帯域はとても狭いものでした。
しかし可聴帯域を充分に魅力的に増幅する真空管アンプは存在し、
高速化の限りを尽くされた石のアンプに対して決して致命的劣勢の評価を
受けてはいません。どういう事なのでしょう。
忠実伝送のためには、元の信号に追従できない程遅くては困りますが、
元の信号に到底含まれていない程の速さは必要なのか、どの程度有意なのか、
それを見極める事なくただ闇雲に速いアンプを作っても、
かけた手間や費用に見合う出来は望めません。贅沢と無駄は違うのです。
「速い」と何がいいのか。それは語られざる、
目を背けられたままのテーマだったりします。
「速さ」と「早さ」
石アンプの時代になり、速さが問題にされるようになりました。
しかし、必要以上の速さが音に影響する理由はあまり語られませんでした。
それでも、アンプの速さと音質には関係があるらしい事だけは確かなようで、
ことさらにその事ばかりが扇情的に語られてきました。
問題は「速さ」ではなく「早さ」である点に気付いている人は、
僕の知る限りあまり多くはありません。
「早さ」即ち「入力とNFBの時間差」こそが問題なのだとすれば、
NFBの深くなった石の時代になって問題となるパラメータである
有力な根拠ともなります。
物理的な長さの差による時間差は多分、μs以下のnsオーダーでしょう。
そんな差が音にどれだけ影響するのかを測定機に出すにはこれからの努力が
必要でしょうが、
単純に考えて100nsの時間差は10KHzに対して1/1000周期、
NFBは1周回って終わりではないので無視できる大きさではないと思います。
事実、複雑なディスクリートの回路で組んだアンプユニットに比し
スルーレイトがひと桁劣るオペアンブICの回路でも、
NFBループをひと桁短くできるために音質的には張り合えるものが作れます。
アンプの応答特性よりも引き回しの長さの方が問題なのです。
だから、僕の個人な評価基準としては、
メジャーループNFBを持つパワーアンプでは、電圧増幅段と終段
が遠いものはきっぱり「設計段階でダメ」として聴くまでもなく選外です。
あくまで「聴くまでは解らない」とする人を否定するつもりはありませんが、
僕はそれらを「評価対象外」とする態度を変えるつもりもありません。
本当に求められているのは「速さ」でしょうか?僕はとても疑問です。
執筆 1999年7月
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